昌磨の戦略「ジャンプか表現か両方か」

以前「隠し玉の表現力は昌磨の戦略?」という記事を書いた事がありますが、今季全日本選手権優勝後の昌磨のインタビューが配信され、その答え合わせができたように感じましたので、当時の自分の記事の内容を入れながら再度、取り上げることにしました。

ジュニアの頃の昌磨は今よりも自由にのびのびと滑っていたように私は感じます。あの頃の昌磨の表現力に私は注目していましたが、シニアに上がってからの昌磨の演技は何か制限されてしまっている気がしてなりませんでした。

世間では昌磨の表現力が評価されていましたが、私の中では昌磨が本来持っている表現力がほとんど発揮されていない歯がゆさをずっと感じておりました。

しかし特に今季は、シニアに上がってからの表現も正真正銘の昌磨の演技なのだと感じるようになりました。きっとそれは、高難度構成が身に染みついた上での演技となったからかも知れないな、と勝手に推察しています。

昌磨が樋口コーチの元を離れた頃「それまでのプログラムは試合に勝つための、ジャンプのためのプログラムであった」と昌磨は語っていました。当時の昌磨のプログラムは意図的な「勝つためのプログラム」つまり「ジャンプのためのプログラム」だったのだと非常に驚いたと同時に、ジュニアの頃のような昌磨の演技を求めていた私はその記事を読んで非常に納得したのを覚えています。

当時のその記事の一部をここに2つ貼り付けます。

宇野昌磨「自分のスケートを探していく」2019.7.24 16:00(一部抜粋)

https://www.lmaga.jp/news/2019/07/72409/

これまでのプログラムやルールに言いたいことがあるわけではない、と前置きしつつ、「今のフィギュアスケートは、ジャンプが主流。ジャンプを最重要にしなければ、(世界では)戦えない。フィギュアスケートというのはジャンプのスポーツではなく、『技術』と『表現』、両方兼ね備えてこそ。

これまで僕はジャンプだけ意識して試合をしてきた。そのなかで、少しでもエキシビションのときのような表現力を、試合でも体現できたらと思います」と、「昌磨のスケート」への一歩を踏み出したことを明かした。

宇野昌磨、今シーズンはコーチ不在? 北京五輪に向け試行錯誤のチャンス〈AERA〉
2019/07/24 11:30(一部抜粋)

https://search.yahoo.co.jp/amp/s/dot.asahi.com/amp/aera/2019072300062.html%3Fusqp%3Dmq331AQIKAGwASCAAgM%253D

「ジャンプのためのプログラムではなく、僕自身が作り上げるプログラムがいいと話しました。僕はこれまで振り付けに意見することはなかったけれど、自分らしさのある、自分が楽しいと思えるプログラムで試合に出てみたいんです。

ここ数年はジャンプをメインにしたプログラムが続いていたのを自分でも実感していました。それは僕がジャンプを跳ばないと勝てない状態だったから。今季は(演技の点数が)重要視されていなくてもやってみたいんです」

たしかにフィギュアは今、4回転時代。

その中で、ネイサン、昌磨、鍵山優真選手はジャンプ(技術)と表現力(芸術)の両輪が非常に安定して揃っている選手だと私は思っていますが、

ネイサンは4回転ジャンプを乱発するフリーのプログラムになると、途端にスケートが雑(に私には見えてしまう)になり、せっかくのネイサンの表現力も鳴りを潜めてしまうようにずっと私は感じています。

たしかに4分の間に3回転や3回転アクセルの他にさらに4回転ジャンプやコンビネーションを多数回跳ばなくてはならないフリーでは、芸術性を保つのは難しいのかもしれません。

つまりネイサンのように4回転ジャンプと表現力の両方を魅せていくことは当時、樋口コーチは「時期尚早」だとお考えになっていた、ということなのでしょうか。

当時このブログでも書きましたが、当時の私が最後にたどり着いた考察は、

まずは4回転ジャンプに照準を合わせて4回転ジャンプをたくさんプログラムに入れ込み、トップ争いに食い込んでおくと同時に4回転乱発のプログラムを体に慣れさせ、高難度(4回転乱発)プログラムを身体が体得したこのタイミングでもって、昌磨の本当の隠し玉であった表現力を持ち出すと…。

つまり、多種4回転ジャンプを複数回跳んだとしてもスケートのクオリティを落とさず、さらには表現力で魅せるプログラムで他者に差をつけていくという狙いがあったのかなと…。

当時このブログでそんな事を書いておりましたが、今回、昌磨のインタビューの動画を見て、その答え合わせができたので、その動画をここに貼り付けたいと思います。

この動画の中で昌磨が語っていた内容を一部抜粋します。

フィギュアスケートというものが正直な話をすると、どうしても今技術にどんどん寄って行ってしまっている。ジャンプを跳ぶ選手が上に来るようになってきていて、僕もそのルールに則ってジャンプを重点的に練習しているんですけど、フィギュアスケートっていうものがジャンプだけではないんだよっていうところを僕が僕も率先して表現できたらなとは思うんですけど。

でも本当に競技者である以上、点数を取りに行くってのが一番最優先事項だと思ってるので、そういった意味でも色んな意味で考えさせられるところはあります。

僕は高橋大輔選手に憧れてスケートをずっとやっていたので、やっぱりその表現が素晴らしい選手スケーターは本当に目を引くものがあって、僕はどうしてもそれがフィギュアスケートであってほしいと思っちゃうんですよね。

もちろんジャンプもすごいことですし、僕もどっちかというと今はジャンプに寄っていますけど、でもそのフランスのアダム選手とか、プログラムが、本当にこれを表現したいというのが演技中に伝わってくるような演技をしていて、

そういう選手になりたいなって僕も小さい頃からずっと思っていましたし、そういう選手がやっぱりトップに来ないと注目されないですし、良しとされないっていう現状を見た時に、本当にジャンプと表現の両方大事って言うと思うんですけれども、それでも僕が今、必然と日本のトップで走れているからこそ、その両方をおろそかにせずやり続けることが、今後ルールが変わったりとかそういった時に何かプラスになればなっていうのは結構このファイナルから全日本期間中考えることが多かったと思います。

ステファンもそこを大事にしたいと思いますし、僕もそこを大事にしたいと気持ちは本当にあるんですけど、でもやっぱり競技者である以上、どうしてもまずは点数を取りに行くっていうことが最優先になってしまう。

昨日の演技だってサルコーとフリップを失敗したことによって、本当に素晴らしい演技だったと言われないんだと思うんですよ。やっぱりジャンプを失敗すると素晴らしいとは言っていただけない、そういうのが現状だと思いますし、実際、僕も選手もそういう気持ちでやってるんですけど。

それでもステファンコーチはNHK杯の時、割と結構練習比で良かったんですけど、結構ご立腹だったので、ジャンプじゃなく、プログラムとして見てるんだなというのは感じさせられましたし。

もちろんやっぱりより良い成績に点数を取るために、より難易度の高い構成だったりのジャンプっていうところをやっぱりやるべきだって僕は思ってます。

ただそのあまりにもおろそかにするフリープログラム、ショートプログラムにはしたくないなって思っていて、

でも僕は選手である以上やっぱりよりいい点数を模索し続けるべきなのかなって、表現っていうのは本当にそれこそプロに転向したら自分の何かスケートってものを追求していけるのかなと思ってるので、ここから世界選手権に向けて、今できていること、今年入ってからもどんどん安定感が増していて、すごく良い状態にあると思うので、より一層磨きながら新しいことにも挑戦しながら、より高みを目指していきたいなと思ってます。

当時から昌磨は「今の自分は表現力に関して全く頑張れていない」「本当はジャンプより表現力を磨きたい」と言っていましたが、その昌磨が他の選手たちよりも早くより多くの4回転を習得していたのは、それが当時の昌磨(もしくは樋口コーチ)の戦略だったんでしょうね。

ジャンプ超偏重の今はまだ、できるだけ多くの種類の4回転を跳ぶ事がトップで闘うカギとなっているのは間違いありません。

そして昌磨の「フィギュアスケートというのはジャンプのスポーツではなく、『技術』と『表現』、両方兼ね備えてこそ。」という言葉。

この動画の中で、

せっかく表現の素晴らしい選手がいても、そういう選手がトップに来ないと、その選手がまず世間から注目されず、その表現力にももちろん注目がいかない。つまり、せっかくの素晴らしい表現力もジャッジからも世間からも称賛されないという事。

そんな中で自分が今、日本のトップで走れている今だからこそ、その両方(ジャンプと表現)をおろそかにせずやり続けることで、もう一度、表現にも注目され、見直され、今後ルールが変わった時に何かプラスになればなと考えることが多かった、と語っています。

表現を大切にしたい選手はたくさんいると思いますが、どんなに4回転以外の技術や表現の部分を大事にしたいと思っても、4回転重視のジャッジと、世の中の目が目立つ4回転にばかりにいってしまう中で、跳べる4回転の種類が少ないという時点ですでに勝負に負けていて、

昌磨のように多種類の4回転が跳べるという同じ土俵の上に上がった上で、表現力で差を示していかなければ、本当の意味で真に表現力の良さや違いをジャッジや世間に示す事はできないのかもしれない、

と改めて今、昌磨の動画を見て、昌磨の言葉を聞いて感じましたね。

えみりん🎵

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